記事
エージェンティックコマースにおける不正とは?その対処法

エージェンティックコマースでは、AIエージェントが人に代わって商品の検索、比較、購入まで行います。AIが「買い手」となった時、企業は「エージェントによる不正をどう見抜き、どう防ぐか」「エージェントが判断を誤った場合、誰が責任を負うのか」という、2つの新たな課題に直面することになります。
本記事では、Adyenの2026年不正対策レポートを基に、従来の不正検知における限界やリスクを整理し、今講じるべき実効性の高い不正対策について解説します。
従来の不正検知の限界
これまでの不正検知では、主に以下の2点が重視されてきました。
取引を行っているのは、本人確認済みの実在する人物か?
その人物には、該当の決済を行う正当な権限が付与されているか?
加えて、エージェンティックコマースにおいては、次の2点が重要となります。
購買を代行するエージェントは、信頼できる正規のものか?
エージェントの行動は、購入者の意図や指示に真に沿ったものか?
これらの課題に対し、単一時点での認証だけで対応するのは困難です。エージェントの資格情報が検証できたとしても、将来の行動までは予測できません。そのため、長期的に蓄積された行動データをもとに、異常を検知するアプローチが必要です。
既存の不正対策ツールの多くはエージェンティックコマース特有の課題に対応しておらず、単一時点での資格情報確認に依存しています。エージェントコマースにおける不正に先手を打つには、継続的な行動履歴の分析をシステムの中核に組み込む必要があります。それがなされない場合、実際の被害が発生する前にリスクを検知・特定することは困難です。
エージェンティックコマースに特有の3つのリスク
エージェンティックコマースにおける不正リスクは、大きく3つに分類されます。
1. エージェントによるプロモーションや在庫の悪用
エージェントは24時間体制で価格や在庫を監視し、条件に合致した瞬間に即座に購入を実行できます。これは購入者にとって利便性が高い反面、その処理速度の速さゆえに、プロモーションや限定販売の悪用につながるリスクがあります。
例えば、複数種類の割引やロイヤルティクレジット、決済インセンティブが、事業者の想定と異なる形で組み合わせて利用されてしまう恐れがあります。また、限定商品が販売されると同時にエージェントが在庫を一括購入してしまい、人が購入できなくなってしまうといった可能性もあります。
どちらも盗まれた認証情報を必要としないため、この種の不正は見過ごされやすく、対策を講じる前に損失が拡大するおそれがあります。
2. 購入者の意図とAIへの指示の不一致
購入者が、意図とは異なる指示をAIに出してしまうリスクもあります。例えば、購入者がエージェントに対し、「金曜日に出発する、150ドル未満のリスボン行き最安値の航空便チケットを購入して」と指示したとします。エージェントは価格の安さを最優先にするがあまり、乗り継ぎに6時間も余計にかかる便や、自宅から車で数時間離れた空港から出発する便を予約してしまう可能性もあります。この場合、エージェントは指示された条件自体は満たしているものの、購入者が本当に求めていた利便性や条件を汲み取れていないことになります。
3. 誤購入における責任の所在の曖昧さ
エージェントによる購入が増えるにつれ、技術的には正常に処理されていても、購入者が実際に望んでいた内容とは一致しない取引が増加していくと考えられます。そのような場合、誤購入に対する債務責任(ライアビリティ)は誰が負うべきでしょうか。
決済を受け付けた事業者?
不一致を引き起こすロジックを開発したAIエージェント事業者?
取引を認証したカード発行会社(イシュアー)?
責任の所在が明確に定義されるまでは、異議申し立てに関する明確な基準がないまま、事業者がそのリスクを負担せざるを得ない可能性があります。
エージェントによる不正対策に必要なこと
エージェンティックコマース時代の不正に先手を打つには、以下の3つが有効だと考えられます。
1. エージェント特有の行動に対応する不正検知インテリジェンス
エージェントコマースの不正検知には、エージェント特有の行動パターンを見抜く機能が求められます。そのためには、エージェントの挙動をAIモデルに学習させて予兆を早期に察知するとともに、事業者、決済ネットワーク、カード発行会社、AIプラットフォーム間でのデータ共有を推進することが重要です。
例えば、人間の購買行動には、ページ上で立ち止まって商品を比較したり、離脱後に何度もカートへ戻ったりするような「揺らぎ」があります。一方、AIエージェントは数秒で数十もの商品ページにアクセスし、途中で迷うことなく即座に決済まで進みます。こうした違いを正確に識別するには、過去のアクティビティや事前の委任内容と照合できる、高度な分析コンテキストを備えたシステムが必要です。適切なシステムがなければ、正当な取引を誤ってブロックしたり、悪意のある攻撃を見過ごしたりするリスクが高まります。
2. データ共有によるエージェントの識別とリスク評価
正当なエージェントと悪意のあるエージェントを正確に見分けるには、決済ネットワーク、金融機関、事業者間でのデータ共有に加え、今後整備されるアイデンティティフレームワークや登録制度を活用することが大切です。
例えば、大手プラットフォーム上で豊富な取引実績を持つエージェントと、新しく導入されたばかりのエージェントとでは、たとえどちらも技術的に認証済みであってもリスクプロファイル(危険度)が大きく異なります。過去の取引データや行動履歴を参照できなければ、正当なエージェントとハイリスクなエージェントを精度高く識別することは極めて困難になります。
3. エージェント特有の認証・委任管理の構築
事業者は、エージェントベースの認可ルールを整備する必要があります。これには、実際の決済時だけでなく、購入者からエージェントへ権限を委任する段階で、同意と委任の範囲をどのように記録・検証するかも含まれます。
例えば、購入者がエージェントに対して「ローマで1泊200ドル未満のホテルを予約する」という指示を出した場合、その委任内容そのものを正確に記録・検証できる仕組みが必要です。これにより、後からエージェントの行動が指示に従っていたかどうかをめぐって異議申し立てが発生した場合でも、有効なカードで請求が行われた事実の証明にとどまらず、当初どのような権限が与えられていたかの確固たる証跡を残すことができます。
Adyenによるエージェンティックコマースの不正対策
Adyenのエージェンティックコマースにおける不正対策は「アイデンティティの確認は一回限りのものではなく、継続的に解析すべきシグナルである」という考え方に基づいています。そのため、不正対策とコンバージョン最適化を担う判定エンジン「Adyen Uplift」に、「Dynamic Identification(行動属性識別)」機能を導入しました。
Adyenの単一プラットフォームは、世界中であらゆる事業の取引履歴を取得・統合しているため、豊富な行動シグナルを活用できます。この統合されたデータを活用することで、再訪したエージェントをより迅速に識別できるため、リスク管理チームはセキュリティを担保しつつ、誤検知による拒否(誤拒否)を減らすようルールを最適化できます。また、行動のしきい値やリスクスコア、識別モデルを一律に固定するのではなく、事業者の業種や扱う商品の特性、異議申し立てへの許容度に応じて柔軟に調整が可能です。
さらに「Adyen Agentic*」は、各AIプラットフォームで新しく登場しつつある標準プロトコル同士を橋渡しします。これにより、プロトコルごとに個別の連携開発を行う必要がなくなり、エージェント標準の進化に合わせて柔軟に適応できる基盤を提供します。
不正利用を抑えつつエージェンティックコマースへの対応を進める方法について、詳しく知りたい方はぜひお気軽にお問い合わせください。
*Adyen Agenticは、現時点において米国で事業を展開する一部の大手加盟店に限定して提供されるものであり、日本国内の加盟店または消費者に対するサービスの提供を構成するものではありません。

