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「障壁」から「信頼」へ:意識させない認証が生み出す、新たな価値
今、Eコマース事業者が直面しているチャレンジは、複数の認証方法をいかに統合して、顧客の利便性と不正抑制をいかにバランス良く行うかーー。つまり、「認証のオーケストレーション」にあると言えます。

クレジットカードを発行するイシュアーや商品を販売する事業者にとって、物理的なカードを使わない決済は常に課題と隣り合わせでした。特に、支払いを行う顧客が本人であることをどう確認するかは、大きなチャレンジとなっていました。
対面決済ではないオンラインでのカード非提示(card-not-present、CNP)における取引の正当性を証明し、不正利用を防ぐために、イシュアーや立法当局は本人認証を必須条件と定めました。日本国内においても、経済産業省より「3Dセキュア2.0(EMV 3-Dセキュア)」の導入が義務付けられています。
従来の3Dセキュアによる認証は、リダイレクトやワンタイムコード、銀行のアプリによる本人確認など、顧客自身が意識的に対応する必要がありました。これらは不正対策として一定の効果をもたらしたものの、顧客自身に手間が生じるため、決済の途中での離脱(カゴ落ち)などの問題も引き起こしていました。
しかし、決済のテクノロジーは日々進歩しています。認証の手段も例外ではありません。今日ではより多くの選択肢があり、顧客の決済導線もよりスムーズになりました。セキュリティ対策の手段も多様化しています。
この流れは、Eコマース事業者にとって追い風だと考えられます。一方、個々の企業にとっては、どの手法を、いつ、どのように導入するか、どこでそのリソースを確保するか、という新たな課題も生まれています。
今、Eコマース事業者が直面しているチャレンジは、複数の認証方法をいかに統合して、顧客の利便性と不正抑制をいかにバランス良く行うかーー。つまり、「認証のオーケストレーション」にあると言えます。
認証は「チャレンジ(本人確認)」から始まった
認証は元来、不正利用を防ぐためのセキュリティ手段として導入されました。かつての3Dセキュア 1.0における主な焦点は、限られた取引情報をもとに購入者へ操作(チャレンジ)を求め、イシュアーが正当なカード会員本人であるかを確認することでした。
一部の国・地域では、法的規制が後押しとなり認証プロトコルの採用が急拡大しました。特に欧州の規制当局は、改定決済サービス指令(PSD2)および強力な顧客認証(SCA)要件を施行し、認証の義務化を迅速に推進しました。
制度化によって、認証は決済エコシステムの設計における不可欠な要素として定着しました。しかし、現在の認証をめぐる大きな変化は、単なる法規制の枠組みだけでは語りきれません。
法規制の有無を問わず、世界的に広がる認証の導入
認証の導入目的が規制遵守のみにあるならば、その普及は義務化されている特定の市場に限られるはずです。しかし現実には、オンライン取引の信頼性と安全性を高める中核機能として、認証の採用が世界規模で急速に進んでいます。
米国の事例はその好例です。オンラインでのカード決済に対して欧州(PSD2/SCA)のような包括的な義務付けが存在しないにもかかわらず、認証の利用率は着実に上昇しています。2025年の US Payments Forumの推計によると、米国内の取引の約3%がEMV 3Dセキュアを経由して処理されました。Adyenの最新データでも、2025年第2四半期の取引件数ベースで3.5%を記録しており、同様の堅調な拡大傾向を示しています。
さらに注目すべきは取引額への影響です。これらの認証済み取引は、顧客起点で行われたオンラインカード決済総額の17.4%を占めており、前年同期の9.2%から大幅な伸びを記録しました。
これらのデータは、単なる法令遵守を超えて、加盟店が自発的に本人認証を取り入れる強力なビジネス上の合理性が確立されつつあることを物語っています。
進化・多様化する認証インフラ
初期の本人認証には、多くの改善すべき課題がありました。初期の3Dセキュア 1.0では、決済の途中で画面が中断され、ユーザーに追加の認証操作を要求することで、スムーズな購買体験を阻害し離脱の原因となっていました。
これに対し最新の認証モデルでは、取引のコンテキスト(文脈)に応じた柔軟な判断を行います。すでに利用可能なデータを有効活用し、取引の信頼性が十分に確認できない場合にのみ、ピンポイントで追加認証を要求します。
取引の信頼を確立し、安全性を証明するアプローチは多岐にわたります。
パスキー:普段端末をロック解除する際と同じ生体認証などの操作で、暗号化された認証情報を本人が所有していることを瞬時に確認できます。
端末の識別・記憶:普段から利用している信頼性の高い端末からのアクセスであることを証明します。
デジタルウォレット:トークン化された決済情報や、検証済みの本人属性を安全に保持・伝達できます。
例えば「Google Secure Payment Authentication(SPA)」は、加盟店の決済チェックアウト画面に生体認証を直接組み込む画期的な試みです。また、欧州で導入が進む「European Digital Identity Wallet(EUDI)」は、ユーザー自身が管理・再利用できるデジタル身分証明の新たな標準を示しています。
これらの技術手法は3DSを代替するものではなく、それぞれの得意領域で異なる視点から信頼を証明する手段です。
事業者には、「どの認証技術を選択し、どのようなタイミングで最適に組み合わせるか」という戦略的な判断が求められることになります。
認証の成功が必ずしも決済承認につながらない理由
認証プロセスにおける重要な当事者として、カード発行会社(イシュアー)の存在が挙げられます。
イシュアーは取引の正当性を判断できた場合にのみ決済を承認します。認証が義務付けられている市場では、取引の正当性を自動的に判断しやすい傾向にあります。
一方、米国のように認証に関する包括的な規制がない市場では、状況はより複雑です。見慣れない端末や通常とは異なる場所からのアクセスなど、イシュアーの判断に影響を与え、取引拒否につながる要因は多岐にわたります。
こうした市場では、認証を追加してその成功データをイシュアーと共有することで信頼性が高まり、結果として決済承認率の向上につながる場合があります。しかし、認証を最優先する一律のアプローチでは、追加の手続きによってコンバージョン率を低下させるリスクが生じます。一方で認証を過度に回避すると、イシュアーが承認判断に必要な重要データを取得できなくなる恐れがあります。
認証を決済承認率の最適化へつなげるには、決済サービスプロバイダー(PSP)の機能を活用し、承認率向上に寄与するデータをスマートに収集・分析してイシュアーと共有することが大切です。PSPには、単にプロトコルや規制に対応するだけでなく、最新技術を用いて決済エコシステム全体の動向を多角的に評価することが求められます。
認証の未来を決める「コンテキスト(文脈)」の重要性
認証の未来は、3Dセキュア、パスキー、Google SPA、デジタルIDウォレット、あるいはデータのみを送信するフローなど、特定の手段をひとつ選ぶことではありません。重要なのは、状況に応じてどの認証手法を「いつ・どのように適用すべきか」、あるいは「顧客の手間となる操作をいつ省略すべきか」を的確に見極めることです。
かつては単なる規制遵守の手段であった認証は、今や決済バリューチェーン全体を支えるインテリジェントな「信頼レイヤー」へと進化しています。このレイヤーを活用することで、取引の発生元を正しく認識し、正当な決済の承認率を高めつつ、規制要件を満たしながら顧客の手間を最小限に抑えることができます。
こうした仕組みの導入が進むにつれ、顧客にとって認証は「意識しない体験」へと変化していきます。同意の取得やプライバシー保護、トラブル時の救済措置といった厳格な対応は維持されつつも、顧客が認証というプロセスそのものを負担に感じる機会は大幅に減少します。
今後は、事業者側がコンテキストを自動で判断し、信頼できる状況かを判別した上で、追加確認が必要な場合にのみ最も負荷の少ない方法を提示する。この意識しない体験こそが、顧客にとって当たり前になっていくと考えられます。
AIを活用した認証戦略
認証テクノロジーは日々発展しています。効果的な認証戦略のためには、プロトコルや規制要件を形式的に適用するだけでなく、決済エコシステム内で日々生じる実データの動向を的確に把握しなければなりません。決済プロバイダーには、こうした高度な変化へ柔軟に対応することが求められています。それを可能にするのが、AIをはじめとする先進技術です。
こうした市場環境の変化を見据えて開発されたのが、Adyen Upliftの「Authenticate」です。
Adyenは特定のプロトコルに固執することなく、今後登場する新たな認証手段にもシームレスに対応できる、グローバル規模の包括的な認証レイヤーを提供しています。
Authenticateは、個々の取引特性、イシュアーの承認傾向、各国の規制要件、リスクスコア、顧客の購買履歴、利用可能な認証手段などを総合的に分析し、コンバージョン率を最大化する最適な認証経路を自動的に選択します。
私たちの目的は、単に認証を行う決済の割合を増やすことではありません。重要なのは、決済の成功につながる「精度の高い認証判断」を実現することです。
認証そのものが不要になるわけではありません。取り除くべきは、購入体験における不要な中断や摩擦です。Adyen UpliftのAuthenticateをご活用いただくことで、常に進化し続ける決済認証の未来へスムーズに対応できます。
