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物流2024年問題を見据えたBOPIS戦略
オンラインで商品を購入して店舗で受け取る「BOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)」は、顧客満足度を高めるのみならず、小売業界が今後直面する深刻な課題を解決する一助にもなります。
「BOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)」というキーワードが近年注目を集めています。オンラインで商品を注文し、実際に店舗に出向いて商品を受け取るというショッピングスタイルやその仕組みのことを指します。オンライン(ECサイト)で商品を注文して自宅以外で受け取る「Click and Collect(クリック&コレクト)」という買い物スタイルの一種ですが、BOPISは実際に店舗で受け取るという点に特徴があります。
買い物客にとってのメリットは、すでに商品を注文済みのため店舗に出向いて確実に受け取れること、そして自宅で待機せずとも好きなタイミングで商品の受け取りが可能という点です。また買い物客自らが商品を受け取りに店舗に出向くため、配送料を負担することなく商品を入手できる点も挙げられます。これは小売店側にとっても、配送料負担軽減のほか、配送の手配等にかかるスタッフの人件費や業務委託コストの削減につながります。クリック&コレクトの概念自体は、例えばコンビニやロッカーなどを受け取り場所にすることも含まれますが、小売店にとってBOPISならではのメリットといえるのが顧客の実店舗への来店機会を増やすことが可能な点です。場合によっては商品の追加購入も期待できるほか、実際に直接接客することでさらなる顧客満足度向上や、ロイヤルティ獲得につながるチャンスにもなります。来店時点でオンラインとオフラインでの行動が結びつくため、データの一元管理やマーケティングでの応用も可能です。
BOPISがなぜ近年注目されるのか
クリック&コレクトの概念自体はインターネットの利用が進んだ1990年代など比較的古くからあり、さまざまな形で発展してきました。BOPISもオムニチャネル戦略の一環として2010年代以降多くの小売店で導入が進んでいます。ただ、ここまで注目を集めることになった一端は、2020年に始まったコロナ禍に起因します。
世界のEコマース売上は年々成長を続けており、これはコロナ禍に突入した2020年以降も変わらない傾向にあるといえます。米国におけるクリック&コレクトの売上成長率は、2020年のタイミングで前年比2倍以上の伸びを見せています。一方で、同国内でのEコマース売上全体に占めるクリック&コレクトの売上比率の推移を見てみると、実際の売上ほどの伸びはは見られません。これが意味するのは、Eコマースにおける商品の受け取りが2020年を境に「自宅で配送を待つ」から「自宅外での柔軟な受け取り手段」を積極的に選択するよう、トレンドがシフトしつつあるということです。
クリック&コレクトでもコロナ禍でまず注目を集めたのはBOPISではなく、「BOPAC(Buy Online, Pick-up At Curbside)」と呼ばれるものです。「Curbside Pickup(カーブサイドピックアップ)」の名称で説明されることの方が多いかもしれません。「Curbside」とは「縁石」や「路肩」を意味し、郊外型のモールや店舗において自動車に乗ったまま乗降場に横付けしたり、駐車場に停車し、近付いてきた店員からあらかじめ注文しておいた商品を受け取ります。そのまま車からほぼ降りず、店内に入ることもないまま買い物を済ませられるため、コロナ禍の当初は建物内への入店規制が厳しく、感染防止の観点からもBOPACの需要が急速に高まりました。事前に決済を済ませているため、店に寄る必要もないところもポイントです。
ファストフードレストランでお馴染みの「Drive Thru(ドライブ・スルー)」もBOPACの一種といえます。2020年には、米大手ハンバーガーチェーンでは、ドライブスルーとカーブサイドピックアップ用のレーンやスペースを集中的に拡充し、イートインの面積を減らした新型店舗のデザインを発表して話題となりました。また会計やオーダーをスムーズに流すため、ファストフード各社は事前オーダーや決済が可能なモバイルアプリをこぞって拡充し、コロナ禍が落ち着いた現在においても広く利用されています。
BOPISで何が可能になるのか
小売の各分野でのBOPIS活用例をもう少し見ていきましょう。食品スーパーの場合、事前にオンラインやアプリで注文を済ませておき、後で実際に店舗に出向いたタイミングでショッピングバッグに入った商品を受け取ります。食品の場合は鮮度の問題があるため、オンライン注文から実際の配送まで時間がかかると困ります。近年では近距離での即時の商品配送を請け負う事業者が増えたため、住んでいる場所しだいではデリバリーを活用できますが、適切なタイミングで商品を受け取るうえでクリック&コレクトの選択肢は有力な候補です。またオンラインで事前に購入可能な商品を選択できるため、欠品による機会損失を避けたり、献立を考えるうえでの補助になります。
事前に商品を取り置きしておいてもらい、好きなタイミングで受け取れるというのも、BOPISにおける買い物客の大きなメリットです。日本での事例でいえば、コロナ禍以降に業態を大きく変化させた代表格に回転寿司チェーンが挙げられます。商品をつねにレーンに流すのではなく、モバイル端末や据え付けのタブレット端末を活用し、逐次オーダーを受けて個別に来店客の席に直接皿を届ける仕組みが普及しました。お土産で寿司を持ち帰るサービスも拡充され、パッケージ化された既製品のみならず、1品ずつ注文したカスタムオーダーが可能となっています。事前にアプリ経由で注文しておけば、例えば帰宅途中に店舗ですぐに商品を受け取り、ネタがまだ新しいうちに自宅で商品を楽しむことができます。
次に、家電量販店チェーンでの利用を考えてみましょう。会社の勤務帰りなど、欲しいものがあるので店舗での買い物をするとします。品切れで目的の商品が入手できない可能性もあり、その場合は時間のロスとなります。BOPISであれば事前にオンラインで商品在庫を確認しておき、もし帰りに寄ろうとしている店舗内の在庫がなかったとしても、近隣の店舗内で商品を融通し合って在庫を確保してもらうことも可能です。配送の場合、商品の受け取りは翌日以降にまわってしまう可能性が高いですが、BOPISを利用して事前決済しておき、店舗での受け取りを選択すれば、営業時間内に限り好きなタイミングで商品を受け取り、帰宅後すぐに利用することが可能になります。
店舗側にとっても、ここで来店機会を得ることで、本来意図していなかった買い物が店舗内で発生する可能性があり、売上増の効果のみならず、各種キャンペーンや新商品をアピールするタイミングとなるでしょう。顧客接点を増やすうえで、BOPISの果たす役割は大きいといえます。
物流 2024年問題に備えた準備を
買い物客、そして店舗側にとってもメリットの大きいBOPISですが、実際の導入にあたってはリアルタイムの在庫管理システム構築や物流の整備など、業務フローの改善ならびにシステム投資負担が必要になります。特にオンラインオーダーの実現にはリアルタイムで正確な在庫管理が重要となるため、欠品による機会ロスや顧客満足度低下を防止するためにも、これらを効率管理できる一元的な仕組みが求められます。ユニファイドコマースの実現において、在庫管理から受発注、決済まで、すべてを効率的に管理するには単一のプラットフォームの方が有利です。例えばAdyenではグローバルで活躍するブランド企業にオンラインとオフラインを含む複数のチャネルにまたがる決済手段を提供し、オムニチャネルの実現に寄与しています。小売で活用されるシステムを提供するパートナー各社と連携し、すべてのデータはAdyenのプラットフォーム上で管理が可能です。新しいトレンドに対応して顧客ニーズを掴むためにも、こうした仕組みの活用は強い武器となるでしょう。
そしてもう1つ、日本で今後大きな課題になるとされているのが「物流2024年問題」です。物流の分野において、トラックのドライバーをはじめとする労働力不足がすでに顕在化して久しいですが、2024年以降は労働時間規制が厳しくなることもあり、さらに労働力不足が深刻化することが指摘されています。小売業界へのインパクトは大きく、「労働時間規制によりトラックの長距離輸送が難しくなり、遠隔地への着荷の所要時間が1-2日ほど延びる」「従来の人手不足に加えて労働時間規制があるため、ピーク時のラストワンマイルの荷物が配りきれない」といった現象が発生するとみられています。加えて、人員確保のための報酬増と需要逼迫により輸送料金が割増しになる可能性も高まっており、現在もなお成長を続けるEコマース市場にとっての逆風になり得ます。
BOPIS導入におけるシステム整備や業務改善は、こうした2024年問題における逆風を緩和する効果が期待できます。「配送では荷物が届くのが遅くなる」という不満にはBOPISでの店舗受け取りを選択肢に加えることで、買い物客により安価で素早く商品を受け取れる手段を提供することになります。また、効率的な在庫や受発注管理を実現することで、遅延やコスト問題など、物流における制限をある程度緩和していくことも可能でしょう。2024年問題は現状で抱える課題を洗い出しつつ、新たな潮流に備えるいい機会かもしれません。
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